ビッグバン理論の歴史

20世紀初頭、世界中の多くの天文学者の間では、この宇宙は定常的なものであり、その始まりや終わりなどの概念については存在しないものと考えられていた。そのため、この宇宙の起源や終焉などについては科学的な研究や議論などが行われることはなく、あくまで宗教的な意味合いで語られるだけのものに過ぎなかった。

1927年、ベルギー人の天文学者ジョルジュ・ルメートルは以前から確認されていた、様々な銀河が地球から遠ざかっているという観測結果と、一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式を用いて、「この宇宙は大爆発によって誕生した」という宇宙モデルに関する理論を提唱した。この理論は、後に「ビッグバン理論」と呼ばれるものだが、このルメートルの理論はルメートル自身がキリスト教の司祭というこもあり、宗教的な影響を強く受けたものとして、当時の科学者の間では受け入れられることはなく、真剣に議論されることはなかった。

1929年、アメリカ人の天文学者エドウィン・ハッブルが、様々な銀河が地球からそれぞれの方向へと遠ざかっており、その速度は地球から各銀河までの距離に比例しているということを発見した。現在、この発見は「ハッブルの法則」と呼ばれており、このハッブルの法則がルメートルの理論に科学的な基礎付けを行うきっかけとなった。しかし、この時点では、まだ多くの科学者がこの不思議な問題について、科学的に捉えるような姿勢を取ってはいなかった。

1940年代、ロシア人の理論物理学者ジョージ・ガモフがルメートルの理論を強く支持し、物理学的な基礎付けを行った。ガモフは、初期の宇宙は超高温度・超高密度の状態だったものと考え、宇宙の始まりを核爆弾に例えて、爆発に伴う核反応によって様々な元素が誕生したという説明を行った。この頃から、ルメートルの理論は次第に科学者から注目を集めるようになっていった。

その後、1965年に発見された宇宙マイクロ波背景放射をはじめ、ルメートルの理論を裏付けるかのような様々な観測的な根拠が数多く見つかり、ルメートルの理論は科学者からの支持を受けるものとなった。現在では、このビッグバン理論は宇宙の起源についての定説とされているが、同時に未解決の問題も多く存在しており、宇宙の謎を解明するための更なる研究が進められている。

宇宙の終焉「ビッグクランチ」

このビッグバン理論によって宇宙が誕生したものと仮定した場合、その宇宙の終焉については一つのシナリオが予測されている。そのシナリオとは、一般的に「ビッグクランチ」と呼ばれているものであり、この「クランチ」という言葉には、「バリバリと噛み砕く」という意味が含まれている。

そのシナリオの内容とは、「現在、膨張を続けている宇宙の質量が、その臨界密度へと達した際に膨張が止まり、次第に自らの重量によって膨張から収縮へと転じていく。そして、全ての物質と空間、時間などが超高温度・超高密度の状態となり、最初の大爆発が起こる前の特異点へと収束する」というものである。

このビッグクランチというシナリオを理論的に取り扱う場合、「量子重力理論」という万有引力を量子化した理論を用いる必要があるが、現時点では、この理論は完全には構築されていない。そのため、仮にビッグクランチが起きたとした際、我々がどのような光景を目の当たりにするのか、また我々がどのような状況に置かれるのかという疑問については詳しくはわかっていない。

一説では、ビッグクランチの後には、この宇宙全体が自らの重量によって崩壊した天体である、「ブラックホール」のような状態へと変化するのではないかとも言われている。また「ビッグバウンス」と呼ばれる、この宇宙が膨張と収縮を過去に何度も繰り返しているとする仮説なども挙げられている。

しかし、現時点での様々な観測結果では、宇宙全体のエネルギー密度は臨界密度に極めて近いことがわかっているため、ビッグクランチは起こらずに宇宙は永遠に膨張し続けるという可能性がもっとも濃厚だとされている。そのため、少なくとも我々が生きている間には、ビッグクランチが起こることはないものと見られている。

関連動画

この動画は、ビッグクランチを含む、宇宙の終焉に関する四つのシナリオ「ビッグリップ」、「熱的死」、「ビッグクランチ」、「ビッグバウンス」について、可愛いアニメーションを用いてわかりやすく説明している動画である。この動画は日本語字幕にも対応しているため、ぜひともご覧いただきたい。

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